スト6の海外大会の現地配信を見ていると、たまにこういう話が出てきます。
「この選手、現地だとこれくらいのMRだけど、日本だったらもっと上だよ」
具体的な数字を挙げて、たとえば現地で1800くらいの相手を見て「日本なら2000はある」といった言い方をされることもあります。
そうだよなぁそれくらいはあるよなぁと知ったか顔でニチャニチャしながら、ほんとは心の底でどういう理屈?と思っている人もいると思います、僕のように。
なんとなく「まあ、そうなのかな」と流しつつ、よく考えると本当かどうかわからない。
これを考えていきたいと思います。今回はこの「日本のMRは海外より価値が高い」説を、イロレーティングの仕組みから整理してみます。先に言っておくと、結論は白黒はっきりつきません。でも、どこまでが筋の通った話で、どこから先が確かめようのない話なのか、その切り分けはできます。
なお、そもそもMR(マスターレート)のベースのイロレーティングって何?という話は別記事に書いたので、仕組みから知りたい人はそちらを先にどうぞ。

理屈の上では、この説はありえます
イロレーティングの一番大事な性質は、それが「絶対的な強さ」ではなく「その集団の中での相対的な位置」を示す数字だ、ということなんですな。
つまり同じ1800でも、それが「どんな相手と戦ってついた1800なのか」で中身が変わります。トップ層が分厚くて、強い相手ばかりの集団の中でついた1800と、そうでない集団の中でついた1800は、実力の絶対値が違う。
日本は、プロやトップ層の数がとにかく多い。しかもその人たちが、配信しながら普通にランクマに潜っています。上のほうの人口密度が高い、と言い換えてもいいかもしれません。
とはいえ厳密な統計があるわけではないので、これも体感の話です。僕自身はトッププロと頻繁に当たるようなレート帯にいるわけでもないので、上のほうの厚さは、配信や大会を見ていて感じることでしかありません。
その前提で言うと、上が厚い集団の中でレートを上げるのは、相対的にしんどいはずです。だとすれば「日本の同じMRのほうが、中身が濃い」という主張は、イロの理屈からするとちゃんと筋が通ります。
そして、対戦する集団は実際にある程度分かれています
イロの「集団によって数字の価値が変わる」という現象は、集団がきれいに分かれているほど強く出ます。
その点でいうと、スト6のマッチングは通信速度で範囲を絞れます。狭い設定にしていれば、物理的に近い相手と当たりやすくなる。太平洋を挟んだ相手とバチバチにやり合うのは、格ゲーのゲーム性からしてもまず無理です。なので、多くの人にとって対戦する相手はある程度地域でまとまっている、と考えていいと思います。
つまり、説の前提そのものは成り立ちうる。
ただ、確かめる手立てがありません
問題はここからです。
そもそも、地域ごとのMR分布がどうなっているか、といった統計はカプコンから公開されていません。日本と他の地域を数字で比べようにも、比べるためのデータが最初から手元にないんです。
じゃあ大会の成績で比べればフェアじゃないか、と思うかもしれません。実際、大会は世界中の選手が直接ぶつかるので、地域の影響を受けにくい比較軸ではあります。
ただ、この説が使われるのは、たいていプロが海外に遠征して、現地で名もなき強豪に当たったときです。「強かったな、あぶねー。この人、日本ならもっと上だわ」的なね。
その人たちは、当然ながら大会の記録には出てきません。CPTを精力的に回っていない限りは。名前も知られていない。だから、大会レートで検証しようにも、比較対象がデータのどこにも存在しない。
結局、この説をまともに語れるのは、実際に現地へ行って現地の人と対戦したことがある人だけ、ということになります。
それに、これは固定の換算レートではありません
ここも誤解されやすいところなので、はっきりさせておきます。
さっき例に出した1800と2000という数字は、あくまでその場で出た一例です。「海外のMRには一律で200足せばいい」という為替レートみたいな話ではないし、プロもそういう意味で言っているわけではないはずです。相手が誰で、どんなプレイをしたかによって、当てはまる数字は毎回変わります。
なので「あの選手は海外だから、表示より200高く見積もろう」みたいな使い方はできません。そういう換算表は存在しないし、誰も検証していない。
じゃあ、この説は根拠がないのか。そうでもない
ここで切り捨ててしまうと、それはそれで不公平です。
プロが「日本ならもっと上」と言うとき、何もデタラメを言っているわけではありません。長年トップで戦ってきた対戦者として、「この相手のプレイの精度は、日本でいうとこのあたりの感触だ」という、目利きで評価しているんです。
これは数値データではないけれど、根拠がないわけでもない。熟練者の体感評価、という種類の根拠です。将棋のプロが一目で「この局面は先手有利」と言うのに近い。データで裏取りされてはいないけど、経験に裏打ちされた眼がある。
整理すると、この説の根拠には3つのレベルがあります。イロの理論(仕組みとしてありえる)、プロの目利き(熟練者の体感、説得力はある)、そして数値データ(存在しない)。
余談:国旗では接続場所はわかりません
本筋から少し外れますが、関連する豆知識をひとつ。
僕はマッチングの範囲をかなり狭くしているんですが、それでも日本以外の国旗の相手と当たることはあります。アメリカやバングラデシュあたりの国旗で、名前もそれっぽい、という相手に当たった記憶があります。
ただ、その人が海外から繋いでいるとは限りません。国旗はプロフィールで自分で設定するものなので、住んでいる場所とは無関係です。日本在住の外国籍の方が母国の旗を出しているケースは普通にあり得ます。逆に、海外のプレイヤーが日本を拠点に活動しているケースもありますしね。
実際、そういう相手と当たってもラグをひどく感じたことはないです。
なので、対戦相手の国旗を見て「今の人は海外だな」と判断することはできません。ここは覚えておいて損はないと思います。
結論:方向は遠からず、でも換算表ではない
まとめます。
「日本のMRは海外より価値が高い」は、イロの理屈からありえるし、対戦する集団が地域である程度まとまっているのも事実。プロの目利きという根拠もある。方向としては、たぶん遠からずです。
ただ、それは一律の換算レートではありません。プロが言っているのは、目の前の相手を見ての実力評価であって、「海外のMRは何ポイント足す」という話ではない。しかも地域ごとの分布データが公開されていない以上、僕らが数字で確かめることもできない。
結局、MRというのは「自分がいる集団の中での立ち位置」を示す数字であって、他の地域の人と厳密に比べるための共通の物差しではない。プロの体感はそれとして、僕らもコメント欄でニチャニチャ知ったかぶりする、それくらいの距離感がちょうどいいんじゃないかと思います。大丈夫、理屈は成り立つので。面白いですね。
なお、そのMRが短期でどれくらいブレるのか(実力が変わってなくても200くらい平気で上下する話)は、別記事で書きました。

